能ガキブログ

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世阿弥の能楽論「風姿花伝」を学べる3冊

前回の投稿からの流れで、世阿弥が著した風姿花伝に興味を持ちました。

世阿弥は、大成した能を後世に残すため、システム化し文章にまとめ、約20もの能楽論を書き遺しました。

そのうちでも風姿花伝は初期に書かれ、37歳の時に執筆を開始しています。最古の能楽論の書であり、日本最古の演劇論とも言えます。

そんな風姿花伝に纏わるサクッと読める3冊を選んでみました。

 

「91分で読めます」とあったので、最初に手にしました。原文を現代っぽい言葉に置き換えた本で、ビジネス書のように気軽に読めました。内容を大まかに把握したい場合にオススメの本だと思います。

また、読みやすいがためにさらっと通り過ぎがちですが、敢えて何回か読み直すと、深みが伝わるように思いました。

 

オードリー若林さんがインスタ上で下記のようにオススメされていた本書。

風姿花伝に纏わる本を)何冊か読んだ中でもこの「すらすら読める風姿花伝」は、著者の方の現代語訳が分かりやすく且つとてもおもしろいので文字通りすらすら読めた。

フリガナ付きの原文現代語訳が並べられています。しかも章ごとにある著者の解説が大変興味深く、理解が深まりました。ただ注意点として、風姿花伝の中の1章「風姿花伝第四(だいし) 神儀云(じんぎにいわく)」は、事煩瑣にわたり、やや専門的であるためガッツリ省略されています。

 

読み物としては一番面白かったです。世阿弥の有名な言葉「珍しきが花」「初心忘るべからず」「離見の見」「秘すれば花に絞って、現代人が世阿弥から学べる人生論がまとめられています。ただ言葉の出自は「風姿花伝」に限らず「花鏡」などからも引用されています。「風姿花伝」の内容把握というよりも、世阿弥をざっくり学びたい方にはオススメだと思いました。

世阿弥の生涯を描いた「華の碑文」を読んで

世阿弥(ぜあみ)に興味を持ち、本書を手に取りました。

世阿弥は、室町初期の能役者・能作者で、父である観阿弥(かんあみ)と共に能を大成した人です。

本名は観世(かんぜ)三郎元清(もときよ)で、幼少期は鬼夜叉藤丸と呼ばれていました。名前がコロコロ変わるのは昔あるあるですね。40代以降に観世の(ぜ)と阿弥陀仏がくっついて世阿弥陀仏と呼ばれるようになり、略して「世阿弥」となりました。ただ当時は「世阿」と略されていたようです。

本書はそんな世阿弥の生涯が、弟の観世四郎元仲(もとなか)の視点から描かれています。ちなみにこの元仲の息子を音阿弥(おんあみ)といい、世阿弥の後に観世流を継ぐ人物(三世観世大夫)となります。

本書は思ったよりもドロドロでした。ドラマチックな内容で面白かったです。見どころは3点。

絶世のイケメン美少年「世阿弥」の身売り

貧乏な幼少期には寺院の僧に身売りにいかされたり、有名になるきっかけは時の権力者、将軍足利義満からの寵愛と庇護など、ジャニーズ問題に見られるような芸能界の闇が室町時代から続いていることに驚愕します。

政情の変化に巻き込まれる「世阿弥

当時の芸能は権力者によるサポートが必須でした。他のライバル芸能団体とのポジション争いや、足利義満の死の影響など、政治の流れに翻弄される様にハラハラさせられます。

天才アーティスト「世阿弥」の苦悩と栄光

父である観阿弥への尊敬とその価値観との葛藤や、全く別の方向性を持つライバル犬王道阿弥との芸の磨き合いなど、天才の孤独な試行錯誤の末に、単なるエンタメであった猿楽を、現代まで続く芸術にまでに昇華させるサクセスストーリーは、本書最大の見どころです。

 

確かにドロドロでドラマチックな展開なのですが、少し古めの淡々とした美しい日本語で描かれているので、独特の雰囲気が心地よかったです。大河などでぜひ映像化して欲しいと思いました。

詞章と現代語訳を手に入れる方法【無料】

前回の投稿で、能楽鑑賞の際に以下があると内容が理解でき、より楽しめたと書きました。

  • 詞章のテキスト
  • 詞章の現代語訳

詞章(ししょう)とは、 能、浄瑠璃など演劇的作品の文章で、舞台上で演者や地謡方(じうたいがた)が謡うセリフやナレーションになります。

自分で用意する場合に、実際に手に入れる方法を探してみました。

 

詞章と現代語訳を手に入れる【有料】

檜書店さんから「対訳でたのしむ能」という、ど真ん中の本が出ていました。演目ごとに詞章と現代語訳が1冊にまとまった本で、A5判で薄くコンパクトなので能楽堂への持ち運びも便利そうです。しかも1冊770円(税込)とリーズナブル。
他にも能の見どころや魅力、装束や作り物の解説、曲の舞台となった謡跡の紹介なども掲載され、予習用にも面白そうです。全43曲対応しています。

www.hinoki-shoten.co.jp

 

詞章のテキストを手に入れる【無料】

「無辺光」という便利なサイトがありました。詞章のデジタル化に取り組む能楽愛好家有志の方々が、国立国会図書館デジタルコレクションを活用して文字起こしをし、まとめたものを冊子型のPDFとして無料で公開されています。

muhenko.com

 

詞章の現代語訳を手に入れる【無料】

能楽の世界では有名なサイト「the能.com」演目辞典では、演目ごとに現代語訳のPDFが無料でダウンロードできます。前述した「対訳でたのしむシリーズ」を参考にしているとあり、現代語訳のクオリティも担保されています。

www.the-noh.com

 

矢来能楽堂で「羽衣」を鑑賞

先日3月3日(日)矢来能楽堂「羽衣」を観に行きました。4回目の能楽鑑賞になります。

矢来能楽堂は閑静な神楽坂の住宅街にあり、自宅に併設された能楽堂で、アットホームで隠れ家的な雰囲気がありました。こちらの建物は国の有形文化財に登録されています。

今回は能楽協会主催の能楽堂散歩」という初めての能楽堂探訪を誘う初心者向けのイベントで、

以下のようなプログラム内容でした。

  1. 舞台上での解説(日本語と英語)
  2. 「羽衣」の実演
  3. フォトセッション

初心者向けということで、事前に詞章全文とストーリー解説(イラスト入り)が書かれた冊子が配られ、さらに希望者には字幕解説タブレットの無料貸出がありました。至れり尽せりのサービスで準備万端で鑑賞に臨みました。これで3,000円は有り難かったです。

今回は初めて中正面席に座りました。しかも一番前の席!斜めからの視線なので、舞台が立体的に観られてとても迫力がありました。個人的には正面席よりも好きでした。

舞台上での解説のあと「羽衣」が上演されました。舞台上の演者を見つつ、冊子で詞章を確認しつつ、タブレットの現代語訳で内容確認をするという、ちょっと忙しめの鑑賞でしたが、一語一句内容が理解できている状態で能を観るのは初めてでした。詞章の内容に呼応するように、演者のちょっとした動きから突然登場人物の感情や周囲の景色が浮かんでくる感じがして、思わず「おーーっ」と感動してしまいました。

前半はしっかり頭を使って内容を追って鑑賞していたのですが、後半、特に天女が舞い始めてから、段々舞の動きと囃子の音や謡の声が迫って来て、どんどん押し潰されそうになり、最後にはしっかりカタルシスを感じました。頭がスッキリしました。これはクセになりそうです。

上演後にはフォトセッションということで、舞台上にシテの演者さんが再登場し、撮影会が開催されました。ガンガン撮りまくりました。動画もOKでした。

話は変わりますが、矢来能楽堂には珍しい座敷席があります。昔は位の高い方々が利用していたようです。

今回は装束展示に使われ、「羽衣」上演後に公開されました。

能楽鑑賞は不思議と毎回違った印象を持つのですが、今回も新たな扉が開いたような新鮮な鑑賞になりました。今後、詞章と現代訳を持参して能鑑賞に挑もうかと思います。

三井記念美術館にある能面「花の小面」

先日参加した「お能にトライ!」という体験講座内で、能楽師の小島英明さんが能面について解説されました。

そこで東京都内で見られる重要文化財「花の小面」の話をされました。

小面(こおもて)とは静かなほほ笑みをたたえた若い女性の面。その中でも豊臣秀吉が愛蔵した「雪・月・花」という3つの小面があり、そのうちの「花」が、三井家が所有する日本橋三井記念美術館に所蔵されています!

こちらがその「花の小面」です。三井記念美術館の過去の展覧会の画像を勝手にお借りました。

室町時代石川龍右衛門(たつえもん)作と言われ、「雪」は京都の金剛流宗家が所有しています。「月」徳川家康に贈られた後、江戸城炎上で焼失してしまったそうです。

直近では年末年始に、同美術館の「国宝雪松図と能面X能の意匠」という展覧会で「花の小面」が展示されました。能面の裏側までしっかり見せる形で能面が並ぶのは、2014年の「能面と能装束 ─ みる・しる・くらべる ─」以来、9年ぶりだそうです。

私もたまたま観に行っていて「花の小面」を拝見しました。当時はそんな貴重な面だと知らず、有り難がることなく普通に見てしまいました。残念。

今まで能楽鑑賞中に能面を意識することはあまりなかったのですが、当展で近くでいくつも鑑賞し、思いました。能面って割と左右非対称なんだなって。左右の目の角度が微妙に違ったり、鼻が真っ直ぐではなかったり。手作りの味以上の左右非対称で、意図的なデザイン。それでよりリアル感が出たり、多彩は感情表現が可能になったりするんですかね?

体験講座「お能にトライ!」に参加

なかのZEROでの新春能「船辨慶」で配られたチラシに、シテの小島英明さんが開催されるお能にトライ!」という体験講座の情報がありました。

会場は中野区立歴史民俗資料館で、すり足の所作や謡の発声を体験できるということで、3月に参加してきました。

講座開始早々、小島英明さんが突然、3メートルという間近で高砂の有名な冒頭を朗々と謡われました。見所から舞台上の謡を聴くのと違い、同じ高さからだと声量が半端なく圧倒されました。音の密度が高いというか、鼓膜が押されるような、とにかく迫力が凄かったです。この体験ができただけでも当講座に参加できて良かったと思いました。それから参加者全員で高砂を謡い、プリントや動画を使っての能の解説があり、講座前半が終わりました。

後半は椅子を片づけ、会場に敷いたゴザの上ですり足の練習が行われました。お尻を突き出したまま上体を真っ直ぐに維持したまますり足をするという、なかなかハードルの高い動作です。何度か練習をしたら、今度は能面の視界の狭さを再現したマスクをつけた状態ですり足をしました。マスクは資料館のスタッフの方々のお手製だそうです。周囲など全く見えず、進む方向にある目標点しか見えません。前に進むだけでもかなりの恐怖を感じました。

面を付けた能楽者の方は、ほぼ何も見えないまま演じられているんですね。なぜそこまで!?と素人は思ってしまいます。すり足も、視界が狭いが故の安全を考えた上での対処法だったんですね。

今回の体験講座は内容盛り沢山で、無料だなんて信じられませんでした。

なかのZERO新春能で「船辨慶」を鑑賞

先日1月21日(日)に、なかのZEROで開催された新春能「船辨慶」を、私よりも能楽初心者の友人に誘われて観に行きました。3回目の能楽鑑賞になります。

今回は能楽堂ではなく、一般的なステージで開催されたので、ステージ上に能楽堂風のセットが展開されていました。この新春能は毎年恒例のイベントのようで、狂言にはあの有名な野村萬斎さんが出演されていました。

演目は

  1. 素謡「神歌(かみうた)」小島英明
  2. 狂言「成上り(なりあがり)」野村萬斎
  3. 「船辨慶(ふなべんけい)」小島英明

2番と3番の間に「船辨慶」の解説が入りました。通常は1番の後に解説が入るようですが、今回は野村萬斎さんのスケジュールの関係でズレ込んだと、解説で仰っていました。

「神歌」とは

能の演目の中には「能にして能にあらず」と言われる、儀式性が高い別格の1曲があります。それを「翁」といい、どのカテゴリにも属さず、ストーリーもありません。天下泰平や五穀豊穣を祈るための舞が舞われる曲で、正月の祝賀能などで冒頭に上演されます。

その「翁」を素謡(すうたい)形式で上演する場合に「神歌」と呼ぶようです。因みに素謡とは、囃子や舞を伴わずに、謡曲だけを歌う形式になります。

本公演では、1番目の「神歌」がとても印象的でした。「船辨慶」シテの小島英明さんが「翁」として数人の役者を伴い、袴姿で舞台上で謡われました。詞章に意味がなく訳のわからない呪文のような謡曲だったのですが、歌声がとても伸びやかで力強く心に響きました。また気持ち良くもあり寝落ちしそうになりました。「翁」を勤める役者は、上演前に一定期間、精進潔斎の生活を送り、心と体を整えて舞台に臨むようです。お陰様で、しっかり祈祷効果が得られたように思いました。パワスポよりもいいかもです。笑