能ガキブログ

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世阿弥の生涯を描いた「華の碑文」を読んで

世阿弥(ぜあみ)に興味を持ち、本書を手に取りました。

世阿弥は、室町初期の能役者・能作者で、父である観阿弥(かんあみ)と共に能を大成した人です。

本名は観世(かんぜ)三郎元清(もときよ)で、幼少期は鬼夜叉藤丸と呼ばれていました。名前がコロコロ変わるのは昔あるあるですね。40代以降に観世の(ぜ)と阿弥陀仏がくっついて世阿弥陀仏と呼ばれるようになり、略して「世阿弥」となりました。ただ当時は「世阿」と略されていたようです。

本書はそんな世阿弥の生涯が、弟の観世四郎元仲(もとなか)の視点から描かれています。ちなみにこの元仲の息子を音阿弥(おんあみ)といい、世阿弥の後に観世流を継ぐ人物(三世観世大夫)となります。

本書は思ったよりもドロドロでした。ドラマチックな内容で面白かったです。見どころは3点。

絶世のイケメン美少年「世阿弥」の身売り

貧乏な幼少期には寺院の僧に身売りにいかされたり、有名になるきっかけは時の権力者、将軍足利義満からの寵愛と庇護など、ジャニーズ問題に見られるような芸能界の闇が室町時代から続いていることに驚愕します。

政情の変化に巻き込まれる「世阿弥

当時の芸能は権力者によるサポートが必須でした。他のライバル芸能団体とのポジション争いや、足利義満の死の影響など、政治の流れに翻弄される様にハラハラさせられます。

天才アーティスト「世阿弥」の苦悩と栄光

父である観阿弥への尊敬とその価値観との葛藤や、全く別の方向性を持つライバル犬王道阿弥との芸の磨き合いなど、天才の孤独な試行錯誤の末に、単なるエンタメであった猿楽を、現代まで続く芸術にまでに昇華させるサクセスストーリーは、本書最大の見どころです。

 

確かにドロドロでドラマチックな展開なのですが、少し古めの淡々とした美しい日本語で描かれているので、独特の雰囲気が心地よかったです。大河などでぜひ映像化して欲しいと思いました。