宝生能楽堂が夏に建て替え工事に入るという噂をネット上で見かけ、その前にと思い、先日4月20日(土)に「杜若」を観に行きました。(確認したところ、実際は今年の建て替えは無いようでした・・)
水道橋駅から徒歩3分で行かれる便利な立地で、入り口は昭和なビルの1階にありました。これは意外でした。
月一で開催される宝生会の定期公演。午後の部の演目は
- 能「芦刈(あしかり)」
- 狂言「千鳥(ちどり)」
- 能「杜若(かきつばた)」
15時半から19時まで、狂言の後に休憩15分を含む3時間半の公演でした。
今回は初めて「脇正面」の1列目に座ってみました。宝生能楽堂ではここが一番舞台に近く、がぶりつけます。
ただ、私が座った11番は目の前の柱が視界に入り邪魔に感じたので、理想は1列目8番辺りかなと思いました。残念ながら既に埋まってましたけど・・・
席が舞台の左側に近かったため、今回は後見の姿をよく観察できました。
後見(こうけん)とは
能舞台の向かって左奥、松の絵が描かれた鏡板の左隅のポジション「後見座(こうけんざ)」に着座している人(1〜2名)を「後見」と呼びます。
舞台の進行を監督する役で、演者の装束を舞台上で直したり着けたり、作り物や小道具を扱ったりします。また、シテが舞台で倒れるなどの事故が生じた場合は、即座に代わって後の舞台を勤める責務もあり、そのためにシテと同じ扇を懐中しています。
物着(ものぎ)とは
今回の演目「芦刈」と「杜若」では、シテの装束を後見が舞台上で替える様を見せる「物着(ものぎ)」という演出がされていました。
通常、装束が途中で替わる場合、シテが中入(なかいり)をし(一度舞台裏に退き)着替えます。それが「物着(ものぎ)」では、舞台上の(多くは)後見座で後見によって行われます。
今回の「杜若」では、「里女」役のシテが初冠と唐衣という「杜若の精」の装束に替えられますが、後見の方々の
「あれ?扇がないぞ」
「扇はその風呂敷の包の中だ」
という無言のやり取りを見かけ、無機質な印象のあった能舞台に初めてライブの生々しさを感じました。
また、演目の後半「杜若の精」として舞を舞うシテに、後見がすすっと近づき、シテを抱き抱えて舞を止め、乱れた装束を整える、ということもありました。
「そんなことしちゃうんだ」と正直驚きました。「杜若」ではストーリー上、装束の初冠と唐衣が意味深長なため、そこまでする必要があると判断されたのかもしれません。
後見がシテを抱き抱えて止めにいったのは、多分理由があります。それは面を付けているシテの視界がかなり遮られているためだと思われます。アイコンタクトが通じないので身体で止めにいったような感じでした。ライブならではの印象的なシーンになりました。
今回の能楽鑑賞では、裏方である「後見」の活躍に注目できました。舞台独特のライブ感を感じ取ることができ、斜めからも楽しめたように思いました。