眠気を誘うように演じられる能。要因の一つに舞や謡のテンポがあるかと思います。
昔の能はもっと速かった
昔はもっと速く演じられていたってご存知ですか?こちらに過去の能のテンポに関して記載がありました。
こちらの本に寄ると、能の歴史は大きく四分されます。
形成期 | |
大世期 | 観阿弥、世阿弥の時代 |
転開期 | 秀吉など武将に愛された |
式楽以降 | 江戸時代以降の、幕府の後援に依る |
その転開期に於いて、大きく2つの変化があったようです。
能装束の変化
1つ目の変化は、普通の着物で演じられていた能が、秀吉の影響で今のような重要な能装束に変わり、演技の質も向上しました。
テンポの変化
2つ目の変化は、江戸時代初期、おそらく5代綱吉から8代吉宗までの時代だと言われていますが、能のテンポが突然ゆっくりになったそうです。それまでは、今の能よりも2倍〜3倍くらい速いテンポで演じられていました。
能はなぜゆっくりになったのか
こちらのサイトで早稲田大学演劇博物館顧問・早稲田大学名誉教授の竹本幹夫先生が解説していました。
玄人の能はどんどん、力をためこむ、力を内向させる演技へと発展していきました。名人は重たい能を演じることができたのです。相撲に近いですかね。でも、素人は力がないので速いテンポでしかできません。
名人は、力を込めた重厚な演技を好んでいきました。ほかの役者との間合いもどんどん遅くなっていく。
(中略)
薪御能講座に参加して
突然話は変わりますが、先日薪御能を観に奈良まで行ってきました。
春日大社若宮での能演の後、次の興福寺での薪能までだいぶ時間があるので、奈良市観光協会主催の薪御能講座に参加しました。
金春流シテ方の金春穂高(ほだか)さんが息子さんの飛翔(ひかる)さんを連れて壇上で講演されました。薪能で演じられる「鉄輪(かなわ)」の舞の解説をされたのですが、それが大変興味深かったです。
穂高さんの謡に合わせて飛翔さんが舞を舞うのですが、謡のテンポに合わせて舞のスピードを変化させていました。
謡が止むと舞が一時停止し、速く謡われると舞も倍速になります。まるで穂高さんが持つリコモンによって飛翔さんの舞が操作されているようで面白かったです。
また、倍速の舞がとても力強く、格好良く印象的でした。
今の能よりも2倍~3倍速かった能ってこんな感じだったのでしょうか?昔の速い能を復活させたら、倍速傾向のある今の世代に刺さりそうですね。